田舎の同一エリアにカフェを2店舗展開できるのか?

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代表の藤江です。

改めてですがRaicho Incの事業は大きく分けて4つあります。

1.宿泊事業
2.アクティビティー事業
3.カフェ事業
4.国立公園・地域作り事業

今日は3.4に関係する事業を紹介したいと思います。

2019年7月末に乗鞍観光センターでGiFT NORiKURA Gelato & Cafeをオープンして早6年。いきなりコロナに見舞われましたが、コロナ禍でも毎年前年より売上を伸ばして成長を続けています。今年はさすがに、と思いきや様々な外的要因もありますが8月は昨年より2割ほど売上が伸びる見込みです。

GiFT NORiKURAをオープンさせた理由は以下のブログを参考にしてください。

近年は地方でも一流のプロフェッショナルなカフェを目指して、Raicho Incの社員全員、そしてスグルくんもダブルワークの中でRaichoを継続的にサポートしてくれていて8名がバリスタ認定を受けています。

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さらに今年は6月に店長の茉莉さんがイタリアにジェラート修行もしてきて、ジェラートのレベルも格段に上がってきており、観光地のイメージを覆すカフェにレベルアップしています。

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それでもまだまだやれることがあり、ポテンシャルもあるので、どう進化していくのかワクワクが継続しています。これってビジネスにおいてめちゃ大事なことだと思います。

先日、丹生川の田上家という古民家を訪れた時に聞いた話ですが、田上家を12年の歳月をかけて作った名工「川尻治助」さんは、人が表から見えないところを一部を12年かけてるのに完璧に作らず、わざと基礎部分を剥き出しにした状態で仕上げているそうです。これは他の大工さんでもやっていることがあるのを聞いたことがありますが、完璧に作るとその家が発展しないため、あえて完成させないという意図があるそうです。

田上家
https://www.hidatakayama.or.jp/spot/detail_1656.html

その話を聞いて、めちゃ頷いてしまいました。

資金力がないというのが一番の理由だけど、思えばRaichoも理想の5%くらいでオープンし、GiFTも理想の10%くらいでオープンし、毎年変化を加えて理想に近づけています。Raichoは事業継承当時、思い描いていただいたい6割くらいには達したかな。GiFTも6割くらいかな。きっとそれぞれ10割になることはないと思います。

特にこういったBtoCのビジネスのお店や宿って、オシャレでカッコよくオープンしたいと思いますよね。でも僕は初期段階でそういうのにはそこまで拘ってなくて、とにかく事業として立ち上がり、継続できるかを大事にしています。だからオープン!!で大体的にアピールするのは不要。むしろ静かにオープンして色々試しながら徐々にジワジワ魅力が出てきて人々が集っていく。どんどん変化していく方が楽しいなーと。

完璧に近い形で作ると人間の最大の敵、飽きもしますしね。
事業を作ることが目的になり、運用に飽きがきてしまう経営者も多いはず。

理想と現実のギャップという言葉をよく使うのですが、理想を描きつつも僕は現実を直視することを意識しています。ほんとに理想を求める理想主義者ほど超現実主義者だと思います。なので、現実の背伸びくらいで届く範囲を見極めて形にすることを続けています。ギャンブルでもありません。

そして、今の格好良さとかよりも、死んでからカッコ良いと言われた方が良いよね、とか、一時流行りやバズるよりも、数十年に渡って少しずつ発展し、長い間愛され、みんなが常に成長を実感できるような場を作りたい。

これは僕の信念みたいな感じです。

さて、ここからが本題ですが、2023年8月に新しいカフェを同じ乗鞍高原内にオープンしました。その名もCafe & Gallery KURUMu

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実は2023年の段階ではご存知の方も多いですが、CODO Incという新しい会社として立ち上げましたが、今年からはRaicho Incとして事業を行っています。その理由はまた後で述べます。

それでは、田舎の同一エリアにカフェを2店舗展開できるのか?ということについて述べて行きます。

1.そもそも乗鞍高原でカフェって成り立つのか?立地の問題。

GiFT NORiKURAの場合、様々な観点からやるかやらないかを決定していたのですが、その重要な要素として「立地」がありました。そもそも飲食店は利益率がかなり低い業態。僕は飲食店経験者でもないし、コーヒーを淹れるのが得意でもなければジェラートを作ったこともありませんでした。自分がカフェを選択することになるとは、前職を辞めた時に想像もしてなかったですが、やることにしました。

その理由の詳細は先ほど紹介した過去に書いたブログにあります。
立ち上げ時ビジネス的な観点で言うと「とにかく立地で寄ってしまう」が大事でした。

そして、目的の一つが地域経済が循環するカフェである以上、そもそもGiFTが心臓のような役割を果たさなければならないわけです。その心臓がバクバク鼓動するためには、その栄養の源となる資金を観光客から商品の対価としていただかなければならない。

僕は乗鞍の玄関口でなければ、どんなにコンセプトがしっかりあったとしてもきっと事業をやろうなんて思いませんでした。なので、田舎でも人の集まる立地を選べば、カフェが立ち上がる可能性が高い。そんな最高の立地のGiFTも実は営業開始2年は赤字でしたが、3年目からは黒字です。それでもまだまだ微々たる黒字。これが飲食店の現実です。

そして、KURUMuは一の瀬草原という場所にあります。
立地的に言えば、まず誰もがそこでやろうとは思わないはずです笑
しっかり統計は取っていないですが、肌感覚的に乗鞍観光センターの30分の1くらいしか現状では人が来ていません。

一の瀬草原は牧場があった時は賑わってましたが、キャンプ場も無くなり、春の水芭蕉、そして秋のオオカエデが紅葉する時の土日に駐車場が3分の1埋まれば良い状態で、平日は全く人がいない時すらあります。KURUMuの前の一の瀬ネイチャープラザは5年間有休資産となっていました。そして箱がかなりでかい。誰もやりたがらないでしょう。

さっきと矛盾してますね笑
それをやろうと決断した背景を説明して行きます。

2.一の瀬の草原景観の維持

僕が乗鞍高原の移住を決めた一つの理由が一の瀬草原でした。

一の瀬草原 まいめの池 photo by 山本拓郎

Raichoのスタッフも皆、一の瀬が大好きになります。乗鞍の人たちもRaichoのリピーターも一の瀬が大好き。そんな一の瀬には大きな課題があります。それが草原景観の維持です。

そもそも乗鞍高原が中部山岳国立公園に含まれたのは、一の瀬があったことがその理由の大きな決め手の一つと言われています。「人々の営みと自然が作り出した高原景観」が評価をされています。乗鞍岳の火山活動から生まれた高原、そしてその中の代表的な場所である一の瀬は過去には杣山、そば畑、炭焼き、わらび粉の精製、そして牧場と人々の営みの中で、草原が維持されてきました。

しかし、放牧を辞めてから、急速な森林化が進んでしまい、かつての景観が失われてきています。現在は環境省・松本市、地域住民が協力し合って人の手で草原をなんとか維持する活動が行われています。

そんな中で、2021年3月に地域30年ビジョン「のりくら高原ミライズ」ができ、草原再生・景観形成分科会ができて、草原を維持する活動する機運がさらに高まっています。昨今は脱炭素もそうなのですが、生物多様性の保全、ネイチャーポジティブを実現する動きが世界で進められています。脱炭素もネイチャーポジティブを実現する一つの要素のようになっています。

草原は生物多様性の宝庫であり、一の瀬草原には多種多様な生物が生息し、希少な生物が生息していて注目されています。なので人々の営みで草原を維持することが一の瀬のネイチャーポジティブなわけです。

こういった活動をRaichoなりの取り組み方で実施したいと思ったのが、旧一の瀬ネイチャープラザを借りて事業をしてみたいと思ったきっかけでもあります。

「人々の営みを一の瀬で行うために、まず人を集められる場所になりたい」

そして、環境省がまいめの池前の旧座望庵周辺を整備する計画が立ち上がり、座望庵を観光協会や地元大野川区も協力してリニューアルし、デッキを作ることになりました。
それなら資金も注入される旧座望庵で事業を!!っと普通考えると思うのですが、地元でやりたいという方が現れたので、そこはお譲りして、一緒に一の瀬エリアを盛り上げていくために、より立ち上げのハードルの高いもう一つの有休資産である旧ネイチャープラザを僕らは選びました。

3.自社店舗との競合の可能性

そうは言っても、1kmくらい離れた同一エリアにGiFTというカフェがあるから、パイを取り合うのではないか、と思う方もいると思いますが、ほとんど気になりませんでした。もちろん細かいところで差別化はしてますが、まず理想として目指しているところがどういう情景かということです。

乗鞍と言えば、乗鞍岳という日本一登りやすい3000m級の山があり、目的地化がある程度されているので、観光センターには人は集まります。しかし、一の瀬草原は今は人がほとんどいないので、僕らは同一エリアでも新たな場所を開拓しているイメージです(正確には復活なのですが)。

乗鞍高原は宿泊施設が毎年減り続けていて、人口もどんどん減り続けています。最近はそれでも新たに宿泊施設を立ち上げる機運が出てきてますが、それでも減る方が多い状況。先ほども書いたように、人の活動がなければ草原景観は維持できません。なので、僕らは乗鞍全体の経済活動を見ています。

乗鞍全体としてみた時には、この場所の地力からしてもっと経済活動があって然る場所。そういった旅行者や観光客が経済を回す仕組みをもっと作らねばならない。ということです。なので競合でパイを奪い合うとか考えている場合ではなく、互いにもっと新規を呼び込む場所、はしごしたくなる場所作りをするだけです。

そして一の瀬草原をきちんとブランド化すれば、かつてのように賑わいができ、地域の経済活動がより活性化し、そして、草原景観を維持する仕組みもできるのではないかということです。なので、旧座望庵から今年「Local food cafe 一ノ日」がオープンしましたが、こちらもお互いとにかく魅力を作ることに注力している状況。今年から一の瀬草原内でカフェをはしごができるんです。凄いですよね。

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サステナビリティーという言葉がありますが、僕は特に地方においては、この経済活動をどう持続可能な形で維持し発展させるのか、というのが、環境保全活動と同レベルで重要な取り組みだと思っています。僕らが生きるための自然の恵が最重要なのは当然であり、その環境保全活動ももっと取り組みを加速しなければなりませんが、そこは取り組むメンバーもいる(足りないですが)ので、僕は自分の力を最大限活かせる経済活動に今は少し軸足を傾けて取り組んでます。ゆくゆくは土をいじって生きたいし、もっと保全活動に関わりたいという思いがありますが、そこは全体最適を考えた僕なりの今の力の入れた方です。最近そこを突っ込んで批判する方がいますが、ブレません!笑

Cafe & Gallery KURUMuのコンセプトは「自然循環」です。
これがRaicho Incの今の取り組み方です。

4.Cafe & Gallery KURUMuでやりたいこと

どんな事業もRaicho Incの中では手段であることは以前にもどこかで説明しましたが、KURUMuも同様です。Cafe & Gallery KURUMuは新たな自然循環を生み出す原動力となる場所を目指しています。

それを目指すために、手段としてカフェとギャラリーという場所を作ることにしました。

カフェやギャラリーとして魅力ある場所になれば、訪れる目的地になる。そして一の瀬草原を知るきっかけとなる。カフェやギャラリーには自然循環を作り出すメニューや商品を展開しています。

KURUMu立ち上げ時のメンバー葵さんが白樺の葉っぱを蒸留して生み出した白樺ソーダ。白樺の葉っぱを煮出したクレムブリュレ、同じく白樺の葉っぱを煮出して、和のスパイスを加えた和チャイ、これらは社員の菜月さんが開発しました。白樺の葉っぱの野草茶もあり、僕が時間がある時葉っぱを摘んだりしてます笑

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これらは草原維持活動で幼木の伐採が毎年行われるのですが、その活動で出た白樺を利用しようという活動です。それでもまだまだ幼木の方が伸びる方が遥かにスピードが速い状況ですが、単純な伐採活動ではなく、循環させる活動にするという取り組みです。小さい一歩ですが、この一歩を重ねていくことでやがて大きな循環を生み出すのではないかと信じています。

KURUMuのカフェ部門の店長なみさんと菜月さんによる地元の素材を使ったケーキの展開もしています。

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GiFTはジェラート、KURUMuはケーキ、そして両方ともプロフェッショナルで美味しいスペシャリティーコーヒーを飲める場所。連泊する中で今日はジェラート、明日はケーキを楽しめる場所なのです。こうやって特に次世代を担う若い世代に一の瀬草原という場所を知ってもらうきっかけが作れたらと思っています。

ギャラリーでは、ギャラリー部門の店長菜月さんが、自然循環に関係する乗鞍や信州のクラフト作家や生産者の商品を展示販売をはじめました。人々の購買行動が、こういった少しでも地域の自然に向き合った作家や生産者が生み出すサーキュラー型の商品を選ぶ視点になれればと思っています。

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こちらはまだまだスタートしたばかり、きっと凄い場所になると思います。
詳細は公式インスタグラムにもラインナップを紹介していますのでぜひ↑を参照ください。

そして、立ち上げメンバーの葵さんが独立して、今年白樺の蒸留水を使ったナチュラルコスメブランドを立ち上げました。その名も「michi incense..」。これもまた素晴らしい商品が生み出されています。

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今年、体験コーナーも小さくオープンしてます。
白樺の幼木の枝の部分を使ったバードコールの制作ができます。
最低2つ制作し、一つはトレイル整備協力金のリターンとして提供するために寄付していただく仕組み。

こうやって地域の方が積極的に資源を利用する動きができ、魅力ある商品や活動が出てくることでどんどん自然循環が加速され、草原が維持され、生物多様性が維持されていく。

そして、自然をテーマにした企画展もはじまりました(現在以下の企画展は終了)。

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こうやって、一歩一歩コンセプトを形にした結果、KURUMuの来店数がオープンした去年の倍以上に伸びています。
まだまだやりたいことが沢山なんです。現時点で理想の10%くらいかな。

全然生産性もなく、非効率な取り組みでとても大変なことなのですが、その理想を現実にすべく行動していけば、もっともっと人が集まる場所になり得るだろうと。何より僕ら自身がそれらの取り組みにワクワクしています。

5.実態の経営状況

すみません、ここまでつらつら述べましたが、実態について説明します。
GiFTは先ほど述べたように、KURUMuがあっても外的要因もあるかもですが、売上も利益も伸びています。しかしCafe & Gallery KURUMuは予想はしてましたが初年度かなりの赤字でした。

箱がでかいので、初年度の投資も1000万ほどしてますが、それでも全然まだ手付かずの場所だらけ。ということで、初年度終わった時点でCODOに次なる一手を打つための資金は残っておらず、銀行からの借入を増やす選択もありましたが、投資回収のステージ(黒字)にするためにもまだまだ投資が必要で時間がかかること、資金面と人的リソースも考え、事業が上手く回っているRaichoでやった方が上手くいくのではないかということで、1年でRaichoが事業を吸収しました。

学ぶことが多すぎて、これだけで別のブログが3本くらい書けそうです。

早期の吸収の決断は様々な観点で良かったと思っています。

今年、Raichoのパワフルなみ&菜月コンビが上述のようにガンガン理想を形にして魅力をアップしてくれて、実態としても8月は単月で黒字になる見込み。まだ通年(グリーンシーズンのみの営業)では、今年もKURUMu事業単体では赤字になると思いますが、僕らにはすでに黒字への道と光が見えてきてます。そしてその先には、乗鞍最大の目的地になり得ると思っていますし、GiFTよりも売り上げる場所になると思っています。そうやって、KURUMuは乗鞍だけでない、世界の様々な自然循環の原動力となりたいと思っています。

最後に、

通常のカフェビジネスの観点とは全く別の視点での記事になっているのではないでしょうか。
ちなみに僕らは通常のビジネスの観点で言うと多分大手チェーン店なみのことを数字で抑えてますし、分析もして、そこから改善を加え続けているので、都会でもビジネスとして勝負できると思います。そういったトライアンドエラーを繰り返すことで社員は自分でビジネスを立ち上げる時に大きな自信にもなるはずです。

何よりも言いたいことが、単にカフェを展開することを目的として捉えてなくて、僕らが大切にして生きていきたいライフスタイル含む「理想を実現する手段」として展開しているが故に、その実現のためにそれぞれのカフェに役割ができ、自然と差別化もされるし、差別化以上に、それそれが意味のある店舗として人々が集まってくる場所になろうとしています。

これは極端な話、それぞれ意味があれば隣の店舗だったとしても成立するのではないかと思います。ただし、これを読んだ方ならわかりますが、まずRaichoという宿やGiFTという軌道に乗っている基盤ビジネスがあるから、より立地的なハードルの高い場所でも異なる意味を持たせたもう1店舗を軌道に乗せるための様々な投資ができているということです。

カフェビジネスという観点でいうと、経験(商品価値が高いものを生み出せる)やブランド力や資金力がなければまずは立地が最重要であるということに変わりはありません(経験があったとしても、立地に勝るものはないと思います)。

そういった一般的なビジネスの観点は当たり前として、地域にも、自然環境にも、訪れる人にも、生産者にも、働く人にも、未来の社会にも「意味と役割のある店舗」になることを目指すようになれば、同一エリアだろうがどんなビジネスも上手くいくだろうというのは、近江商人の話ですね。

そんなことは実は2019年のGiFT立ち上げ時にも記事にしてましたね。

Raichoでは引き続き、このような理想に向き合って行動する仲間を募集しています。興味のある方は以下のリクルートサイトを参照ください。


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