ジョンミューアトレイルを歩いて~計画や感じたこと~

この記事をシェア!

 今回のraichoの長期休みは、アメリカのカリフォルニア州にあるジョンミューアトレイル(以下JMTに省略)というロングトレイルをraichoの藤江さん、拓郎くん、そして、松本市職員の肥後さんと4人で歩いた。総距離は約340kmで、アメリカの3大ロングトレイルのひとつパシフィッククレストトレイル(PCT)の一部でもあり、世界一美しい道のひとつとも言われている。実際に歩いていると自分たちはサウスバンド(南→北)に歩いてたのに対し、ノースバンド(北→南)で歩いているPCTハイカーに1日約30〜40人ほどすれ違い、PCTハイカーの1日に歩く距離、スピードの速さ、精神力のタフさ(明るさ)には驚かされた。そもそも、ジョンミューアトレイルの名前にあるジョン・ミューアとは、「国立公園の父」や「ウィルダネス(原生地域)の提唱者」などと呼ばれ、その人生の大半をアメリカでの自然保護活動に捧げた人物である。自分にとっては、今まで1番長い距離を歩く旅となり(今までの最長距離は、アンナプルナサーキットの178km)、ウェルダネス(手付かずの自然)の環境に身を置く期間も長い。今までよりもほとんど倍の距離と期間を歩くことに対しては、不安よりもチャレンジに対するワクワク感が強かった。また、心強い仲間と歩くということも、何とかなるという安心感に繋がっていたと思う。

JMTの図

パーミットの取得について

 アメリカの国立公園を一泊以上のハイキングをする際には、パーミットの取得が必要になる。自然保護のため、1日に国立公園に入る人数を制限するためである。どこのパーミットを取るかで、歩くルートが変わってくるのでとても大切である。今回自分たちは、JMTをサウスバウンドで歩く、Happy Isles→Mt.whitnyのパーミットの取得が本命であった。このパーミットの取得になかなか苦労し、実際に今回歩いたパーミットを取得できたのは、歩き始める予定の1週間前であった。(笑)
自分たちは、①24週間前から始まる抽選では撃沈し、②の1週間前の予約開始で無事パーミット取得。(クリック合戦で勝ち取った。開始5分とかで予約が埋まっていた。)念のため、他のルートも何通りか選択肢として持ちながらパーミットを取得をしておいた。取得方法ととったパーミットを以下に記しておく。

ヨセミテ国立公園のパーミット予約サイト(Yosemite National Park Wilderness Permits, Yosemite National Park – Recreation.gov
インヨー国立公園のパーミット予約サイト(https://www.recreation.gov/permits/233262

パーミット photo Takuro


(パーミット取得について)※ヨセミテ公園(国立公園によって予約ルールが異なる)
①スタート時の24週間前の抽選 60%
②1週間前の予約開始 40%
③Walk-up permitをヨセミテ公園で取得(残りやキャンセル分)

(取得したパーミット)
・Happy Isles→Mt.whitny(本命)
→Donohue Passを通って、Mt.whitnyがゴール

・Happy Isles→Illilouette(No Donohue Pass)(予備)
→Happy Islesから入り、Lyell Canyonで一度出て、Mono/Parker Passから入り直す

・Mono/Parker Pass(予備)
→Mono/Parker Passを通って、Mt.whitnyがゴール

・John Muir Trail South of Devils Postpile ※インヨー国立公園(予備)
→Devils Postpileから入り、Mt.whitnyが出口

何故ロングトレイルを歩くのか

 何故自分はロングトレイルに魅了され、こんなにもはまっているいるのか。自分のために書き出してみた。今出てくるのは以下である。

Muir Pass 手前あたり

1.考えることが好きであるから
自分は物事を深く考える事が好きである。きっかけは、就職活動あたりからであると思う。就職活動をきっかけに、初めて自分と向き合うということを経験した。(それはまでは、自分で言うのも恥ずかしいが、家族はじめ周りの環境が恵まれていたこともあり、そこまで考えなくても何となくでずっと生きてこれた。)自分の好きなことは何なのか?何のために生きるのか?自分って何だろうか?世の中の真理とは?答えが全く出ないままもがき続け、運良く就職できてからも3年間ぐらいずっと考え、映画や哲学書などを見まくったり、読みあさった。今も答えは無いが、人との出会いや自分の経験から少しずつではあるが、自分なりの考えができてきた。物事を深く考えるためには、様々な視点から見る必要がある。そのため、自分の選択肢が広がることに繋がり、自分の幸せにも影響すると考える。こんなことから、考えることが好きで、自然の中(良い道)で歩きながら考えると、周りのノイズが少なく、思考に集中することができるので、ロングトレイルが好きだ。朝一の心地良い気候の時などは、特に瞑想に近い状態になる。

2.新たな景色や価値観に触れるため
ロングトレイルとは、長く続く一本の道を歩いて旅することであり、その中で新たな視点を手に入れることができるのが好きである。自然によって作り出された言葉が出ないほどの美しい景色を眺めたり、ロングトレイルを歩く中で、その土地や宗教から生まれる文化や価値観に触れることで、自分にはない視点を手に入れることができる。また、自分と違う環境で生きてきた人達の価値観に触れることで、より自分について知る事にも繋がる。これはロングトレイルがある土地によっても様々であるため、国内も含めて、もっと色々な道を歩きたい。
今回、JMTを歩いた中で感じたのは、ウェルダネスと言われる環境を18日間歩き続けたことに事によって、その広大で圧倒的な自然から、自然を作ったのは人間ではなく、人間はこの地球上の生物の一部に過ぎず、他の存在や地球に対して謙虚さと敬意の感情が生まれた。人間は一部の狭い環境の中で生きていると、価値観が凝り固まり、視野が狭くなり、思いやりや謙虚さが弱くなってしまうと考える。

3.シンプルに歩くことが得意
これは、幼少期に多くのスポーツ(サッカー、レスリング、水泳、ラグビー、体操)を経験させてもらった事が大きく繋がっていると考える。その中でも、父がレスリングのコーチをしていた事もあり、物心ついていたころから始めていたレスリングでは、他のスポーツに比べ、多種多様な動きをするため、自分の身体の動かし方が身についた。そして、1番長くやっていたサッカーでは、練習で走ることが多かったため、基礎体力と足腰は鍛えられていたのだと思う。そのため、歩く時でも自分の重心や歩くフォームを自然とコントロールする事ができ、一般的な人よりもより速く、長く、そして心地よく歩く事ができる。(個人的に1番大切であると思っているのは、呼吸である) 自分らしい自然との向き合い方が、自分のペースで、自然の中を歩くということなんだと思う。

人それぞれのペースがある

 今回のロングトレイルで、1番考えたことはそれぞれのペースについてである。いつも海外のロングトレイルを歩く時は、1人で歩く事が多いのだが、今回は4人で18日間、約400km(リサプライ時の距離も含め)の距離を歩いた。1人で歩くときは、自分のペースで歩き、喉が渇いたら水を飲み、休みたかったら休み、好きな場所があれば立ち止まる事ができる。しかし、4人で歩けば一人一人の歩くスピードも違えば、休みたいタイミング、コンディションも違う。今回は、歩くために必要なパーミションの取得と歩く行程を計画させてもらったこと、また歩くのが4人の中では早い方であったため、基本的にグループの先頭を歩かせてもらい、歩くペースについて自分なりに常に考えていた。また、初めに自分の中では、4人で無事にJMTを歩き切ることを目標にしていた。しかし、いざ歩き始めるとスケジュールがタイトなこともあり、自分が考えているペースで、歩くと離れてしまったり、ペースが速すぎて皆んながしんどくなったり、たくさんの迷惑をかけた。(藤江さん、拓郎くん、肥後さん、すみせんでした。笑)
歩き始めて、3日目ぐらいで正直18日間で歩ききるの難しそうであると感じていた。ペースについて考えていたことを、3つの期間で分けてみるとこんな感じ。

Sapphire Lake photo Tkauro

第1章 16日〜20日(4泊5日)
ハッピーアイルズ→マンモスレイク
・スタート時ということもあり、アメリカの広大な自然の美しさに興奮してたのもあり、1、2日目は自分のペースで歩き、後ろと離れたら待っている感じ。3日目から、少し気にし始め1番後ろを歩いたりしたが、先頭を歩く時は自分の感覚でペースを遅めたりしてた。

第二章 21日〜26日(5泊6日)
マンモスレイク→ビショップ
・第二章からは、自分の感覚でペースを作るのをやめて、自分の心拍数100前後を目安に歩き、休憩は1時間〜1時間半を目安に歩いてた。

第三章 27日〜3日(6泊7日)
ビショップ→マウンテン・ホイットニー
・第三章からは、それぞれのコンディションや峠を越えることが多くなったため、心拍数90前後で歩いた。(休憩は同じ)

 結果的には無事に18日間で、歩き切ることが事ができたが、皆んなには最後まで、歩くペースで迷惑をかけ続けたと思う。歩き切ることができたのは、皆んなが自分のことを気を使ってくれて、自分のペースで歩かせてくれたり、頑張ってついてきてくれたからである。歩き終えてからのローンパインでご飯を食べていた時には、「もっとこまめに休憩とりたかった」や「歩くの速すぎ」と皆んなから愛のある指摘をもらった。笑 今回の反省点は、根本的にまず18日間で歩き切るという計画にしていたのが1番大きいと考える。基本的に21日間(3週間)ぐらいかけて歩く人が多いが、15日間で歩いてる人がいる事を聞いていたことや、パーミションか1週間前まで決まっていなかったこともあり、全体間を見ての計画を立てれていなかった。後はもっと声かけてもよかったかなと。

しかし、今回の経験から考えることもあった。ひとつは、組織の1番前を歩くということである。1番先頭にいる者が、組織のペースと進む方向性に大きく影響を与えるということ。組織のペースが、速すぎるとついていけないものがでてきたり、方向性が不透明になると不安になったりする。先頭を歩いていると、そういう組織の変化に気付きやすくなる。結局はその個人がどう物事を捉え進んでいくかが重要であるが、そこに対してのアプローチも難しいなと感じた。だからプレッシャーがあり大変だし、責任が大きくなり、考える事も必然的に多くなる。
もう一つは、あたりまえであるが、個人のペース(認識)は違ってあたりまえであるということ。1人1人が自分のペースで進んだり、好きなことをすることは、楽だし簡単で良い解決方法にも見える。しかし、組織で歩く方がより遠くに、そして大きい壁を乗り越えられる。よく好きなことだけをやって生きていきたいという人がいる。昔は自分もそうだった。しかし、人間が生きていく中で、人との繋がりというものは切り離せない。こうして人間関係の中や組織として進むことで、人の気持ちを少しわかったり、その中で好きなことができてくる。そんなスタンスで生きていく事が大切なのではないかと感じた。そこに人間としての成熟があると考える。

ウェルダネス(原生自然)という概念

 JMTでは、自分が今まで1番ウェルダネスな環境化に身を置き続けた。町に行くまでは、歩いて20km近く歩く必要があったりと、アメリカの広大な土地ならではの経験であった。このウェルダネスという概念は、手つかずの自然・無秩序・自分以外のものといった色んな定義がある。自分が自然を好きな理由も、この無秩序が作り出す、美しさや未知なもの(自分以外のもの)が根本なのだと思う。実際、JMTが終わってから、サンタモニカの観光地を歩く機会があったが、JMTを歩いてる時と違い、あまり魅力を感じず楽しいという感情が自分の中に湧かなかった。しかし、飛行機の中でJMTを歩いていた時の写真を見返してみると、ウェルダネスな環境の中にも、一本の人間が作り出した秩序ある道が存在していた。そして、とても良い道である感じる道ほど、綺麗に整えられた一本の道が存在する。この感覚が不思議に感じ、結局はウェルダネスという概念も人間が作り出した概念に過ぎず、根本的には町にも元々は自然がそこに存在し、町の一部にも無秩序な部分が残っているのでは無いかと、自分の捉え方、認識によって楽しめるのではないかと感じた。人間は言葉によって概念を作り出し、秩序を生み物事を理解していく。そのため、自分と違うものや認識が違う価値観に対して、つい排他的になったり、違いばかりに目を向けてしまう傾向がある。しかし、自分のものの認識や捉え方次第では、違いばかりではなく、共通点も見出す事ができるのではないか。そうする事で、少しでも優しくなれたり、物事を寛容に受け入れる事ができるのではないかと考える。

Mather Pass 付近 photo Takuro

いつだって選択の連続

 ロングトレイルでは選択の連続である。峠を越える時は、雪で道が覆われ踏み抜かない足場を選んだり、食料を1日にどれぐらい食べるか選択したり、時には腰ぐらいある渡渉を試み、一歩間違えれば死ぬ可能性がある選択も存在する。(今回の一番大きな渡渉は、ほんとに一歩一歩が恐怖であった。笑) その選択の経験によって、生きる上での知恵が蓄えられ行くのだと思う。人生も同じだ。運命という言葉があるが、自分の選択の過去を振り返れば、環境や人との出会いによる必然的に導かれていると感じる。(そうなのかもしれないが)しかし、それは目の前の一つ一つの選択によって、物事が起きていることは間違いないと思う。そして、目の前の選択を自分でどれだけ考えるかが、自己肯定感にも繋がり大切であると感じる。これからも、人生の選択を自分で考え、その経験を通して生きる知恵を蓄えていきたい。

Forester Pass 手前

ps:自分は教育に興味がある。実際、就職の際も体育教師を選択するか迷っていた。その時には、自分自身が人間としての教育について、伝えられることが何もないなと感じ、一般企業への就職を選択した。今も自分自身は人間としてまだまだ未熟であり、分からないことだらけであるが、自然の中での経験は自分自身を人間的に成長させてくれると感じる部分がある。次は自然環境の中で育むことができる教育的価値を言語化したいと思う。

この記事をシェア!

Related Posts.

View all.→

乗鞍高原を中心としたサステイナブルな
取り組みに興味がある方へ

これからの未来をより良くしていくサステイナブルアクションをしていきたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ